連載します。タイトル未定。
メンタル系になると思います。というか自分の実状を。
私小説と言った方が近いかもしれません。ほぼノンフィクションです。
主人公が男、と言う所だけが事実と違う所ですね。
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希望をちらつかせないで下さい
楽しみを与えないで下さい
笑顔にさせないで下さい
辛くなってしまうから
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通過待ちで停車した小さな駅を出ると、俺を乗せた特急列車はまた、かたん、かたんと心地よい音をたてて走り出す。
もう3時間は乗っているだろうか。そろそろ腰が痛くなってきた。
広く設計された窓から差し込む日差しが、眠気を誘う様に暖かい。だが、乗車駅を発車した直後から惰眠を貪っていた俺にとっては、ただ暑くむさ苦しいだけだった。
黄金週間だけあって、指定席とはいえ車内は人口密度が異常だ。比例して、暑苦しさも格段に上昇する。
風を求めて窓を開けた。柔らかい土の香りと、ひんやりとした空気が触れる。
段階をふんでスピートが上がる。だんだんと繰り返されるリズムが速くなり、周りの景色はそれに合わせて加速していく。名も知らない無人駅のホームは、あっと言う間に車窓から消えてしまった。
横の席で、同乗する母は規則正しい寝息を吐いていた。
元はと言えばこの旅、俺が札幌へ行く事が目的ではなかった。
母が札幌で買物をしたいと言うから、その機会に便乗して俺も行ってしまおうと思ったのだ。
地元の商店街にある様なシルバーアクセのショップでは、案の定良質のものは手に入れられない。
札幌ならば良いものが安く手に入るし、その上デザイン性がある。
シルバーを収集している俺にとっては、札幌等の大都市は、結構な軒なみ天国だ。
何より、自宅にいたくなかった。
家の手伝いなんてするのも癪だし、連休の思い出が部屋の掃除なんてご免だ。
それに、家族の顔を見たくなかった。と言うより、家族の輪に入りたくない。
出かけてしまえば、後は一人で街を歩き回ればいい。
宿泊先のホテルに入ってしまえば、鍵をかけてしまえばいい。
元々あまり意味のある旅ではないのだ。
家族旅行ならばどうしても輪に加わらなければならないが、今回はそんな大層な旅じゃない。
この列車を降りたら、真っ先に母と別れて地下鉄に乗ってしまおう。
そうすれば、もう一人になれる。あとは自由なのだから。
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続く。